企画背景

コロナが生み出した「集中から分散」への流れ

2014年に日本創生会議が発表したいわゆる増田レポートにより、国は地方創生に本格的に取り組むようになりました。しかし地方では相変わらず若者の人口流出が続き、高齢化や人口減少という構造的な問題が解決する兆しは見えていません。

 

そんな状況下で迎えた2020年に突如、襲ってきた新型コロナウイルス。この未曽有の感染症によって都市部の密集環境で生活するリスクが顕在化し、3密を回避できる地方の価値が一気に高まりました。これによって2020年7月以降、東京都からの転出超過が5か月連続するなど、東京への一極集中という人口移動の潮目が変わっています。奇しくもコロナが強制転換装置となり、国が推し進めてきた「集中から分散」への流れが生まれたのです。

※:増田寛也氏と氏の私設の研究会である人口減少問題研究会が公表してきた論文の総称。2040年までに日本の基礎自治体の約半数が消滅する可能性がある(出産適齢期である20代・30代の女性が半減する)との試算を示した。

 

地方に住まう本当の価値を実践者の目線で

実際、この1年で地方移住を実現し、新たな働き方、暮らし方を手にした人も少なくありません。さらに個人だけでなく、淡路島に本社機能を移転したパソナグループのように、地方に拠点を設ける企業も増えてきました。

 

一方、当初の予想より早いタイミングでワクチンが登場し、日本でも本格的に接種が始まろうとしています。ワクチンの力によって、あっという間に日常生活に戻る可能性もあれば、感染力を強めた変異種の登場でウィズコロナの時代が今後も長く続くかもしれません。

 

まだまだ先を見通すのが難しい状況のなか、地方移住という選択肢は新たな時代のワークスタイル、ライフスタイルとして定着するのでしょうか? それもと地方は緊急避難先であり、コロナが収まれば、ふたたび都市部一極集中に逆戻りするのでしょうか?

 

そこで地方移住の動きは今後どうなっていくのか、地方で暮らし、働く本当の価値とはいったい何なのか?――2014年に自ら地方移住を実現し、地方で出版社を経営する著者目線で考察するべく、本書を企画しました。

企画内容

「ローカルシティワーク」という新しい働き方、暮らし方

本書が提案するのは「ローカル×シティ×ワーク」の掛け算の働き方、暮らし方の概念です。具体的には、地方に移住後も都市部とアクティブに連携しながら付加価値を生み出し、生み出した付加価値を都市部マーケットに提供し、創出した利益を地方に落として地元経済を潤す――そんなイメージです。

 

本書では、すでに都市部から地方に拠点を移して活躍する「ローカルシティワーカー」にスポットを当て、「ローカル×シティ×ワーク」の醍醐味や課題などについて深掘りします。

 

読者に提供したい価値は、「住む場所と仕事の関係はトレードオフではなく、両立可能である」「地方移住後も好きな仕事に従事して利益を上げ、地元に貢献できる」こと。新しい時代の働き方、暮らし方に対応した「ローカルシティワーク」という価値観を提示するとともに、コロナ後を見据えて今後10年の動きがどうなっていくのかを考察するのが本書の狙いです。

 

・戦後70年は、都市部が地方人材を活用した時代

戦後日本は大量生産・大量消費で国民全体が豊かさを享受した時代です。

 

地方から都市部に人材を物理的に「集中」させ、工場で大量の機械を稼働させてモノを大量生産し、大量消費することで1億層中流社会が実現しました。

 

・コロナ後は、地方が都市部リソースを活用する時代へ

高度成長、バブル経済を経た日本では物質的な豊かさから精神的な豊かさを求める時代に移り変わっていきました。モノづくりからコト(ソフトウェアやサービス、システム)づくりに移行すると、人を一か所に集中させて大量の機械を稼働させる必要はありません。

 

2010年以降、急速に発展したICT技術を活用することで、場所を選ばずにコトづくりが可能になりました。実際、能力や意識の高い人たちを中心に、住む場所、働く場所を積極的に選択するようになりました。

 

その2010年代を経て迎えた2020年に突如コロナの時代となり、地方移住がさらに加速。そこで本書が提案する新しい働き方と暮らし方、それが地方を拠点に都市部リソースを活用し、付加価値を生み出すローカルシティワークです。

 

都市部でノウハウと経験を積んだ人が地方に拠点を移し、地方を拠点に都市部のプロフェッショナルと連携しながら付加価値を生み出し、生み出したサービスや商品を全国のマーケットに提供し、得た利益を地方に還元する。これが本当の地方創生であり、地方移住の本当の価値であり、地方での豊かな働き方、暮らし方である――そんなワークスタイル、ライフスタイルの提案を行います。

 

<ローカルシティワークの定義>

①地方に移住後も都市部とアクティブに連携しながら社会的に価値の高い仕事を行うこと。

②都市部をマーケットにビジネスを行い、地方に資金を引き込んで地域を潤すこと。

 ※法人の場合は本社を地方に移転し、地方に税金を落とすことが望ましい。

つまり……

「地方に住み働き、都市部のリソースを活用しながら付加価値(=商品やサービス)を生み出し、都市部をマーケットに提供し、その対価として地方に利益を落とすこと」=本当の地方創生・地域活性化

 

本書のスタンス

本書では地方移住の時代区分を「第1~第3世代」の3つに分けたいと思います。地方移住の流れを整理し、これからの地方移住の新しい考え方や価値観を読者に提示するのが目的です。

 

◎2010年以前 第1世代(従来型移住者)

従来の地方移住は「都会暮らしに疲れたので田舎に帰る」といった受け身の選択肢が主流でした。地方移住の最大の課題となる仕事探しについては自治体やハローワークなどを通じての紹介に期待するのが一般的で、移住後は地元企業に就職するケースが大半でした。

 

このように、2010年以前の昔ながらの地方移住を「第1世代」「従来型移住者」とよびます。

 

◎2010年代 第2世代(アクティブ移住者)

通信環境やクラウド、スマホやノートPCの進化、SNSアプリの普及、オンライン会議ツールなど各種アプリの充実、ローコストキャリアなど低コスト移動手段の拡充、シェアビジネスの普及など、IT環境の成熟に加えて新しい移動環境やビジネス環境がこの10年で急速に充実しました。その結果、住む場所の制約を受けずに都市部とつながり、働ける環境が整ってきました。

 

こうした環境整備、社会的な意識変化を背景に、能力の高い人たちが自らのスキルやセルフブランディングを武器に、住む場所、働く場所を積極的に選択するようになりました。都会で高コストの家に住み、満員電車などストレスにさらされて働くのではなく、新しいライフスタイル、人生のステージアップのために積極的に地方に移住する人が増えてきたのです。このように、受け身ではなく、前向きに地方に移住する人たち、自らの能力を活かして地方で好きな仕事をしている人たちを「第2世代」「アクティブ移住者」とよびます。

 

◎2020年~ 第3世代(新時代移住者)

アクティブ移住者の増加を経た2020年、コロナショックによって企業はテレワークを半ば強制的に、全面的に導入することになりました。その結果、「都市部の会社に出勤しなくても働ける」「都会や都市郊外に住む必要がなくなった」と多くの人が気づきを得、さらにテレワーク経験者の多くが地方移住への関心を強め、実際に地方に移り住む人が増加しました。

 

人生のステージアップを目的としたアクティブ移住にプラスして、コロナや災害といったリスク回避を目的に地方に移住する人たちを、本書では仮に「第3世代」「新時代移住者」と定義しましょう。そして、これからの地方移住の在り方を見つめていきたいと思います。

構成

  • プロローグ 10年で様変わりした地方移住のトレンド

 

  • 第1章 「集中「から「分散」へ――コロナという強制転換装置が地方の価値をさらに高める

・「集中」で経済発展を手に入れた戦後日本

戦後日本は「モノづくり」の時代

工業の発展で物理的に必要となった「人」 ※図

地方から都市部へ、地方から産地へ

「技術×人×機械」=大量生産・大量消費(物理的な豊かさの象徴)という方程式

 

・「集中」による都市化で得たもの、失ったもの

1億層中流社会

「知」の結集で文化・テンタメの発展

超過密都市によるエネルギー効率の良い暮らし

公害、住居の郊外化による通勤苦

都市部一極集中と地方の弱体化

 

・社会の潮目が変わった「1995年」

日本を震撼させたオウム真理教事件

都市化のリスクを露呈させた阪神・淡路大震災

「分散」への萌芽となったウィンドウズ95の発売

 

・「分散」への機運が高まり始めた「2010年代」

「モノづくり」から「コトづくり」への転換

「コトづくり」の時代に集中は必要ない

ICTの成熟で地方に居ながら「知」にアクセス可能に

AIの発達、工場の省力化で集中が不要に

東京一極集中是正策の始まり

地方移住の社会的気運の高まり

 

・「分散」への歴史的転機となった「2020年」

超過密都市の限界

行き過ぎた過密には自然の調整が入る

不自然はやがて自然に回帰していく

コロナがもたらしたのは「意識のパラダイムシフト」

「人×想像力×創造力」=真に豊かな未来という新たな方程式

 

・分散の受け皿となる「地方」の価値の高まり

深呼吸できる暮らしの価値

自然と共生する贅沢さ

地方移住の世代区分①第一世代、②第二世代、③第三世代

 

  • 第2章 地方を拠点に都市部とつながる「ローカルシティワーク」が働き方、暮らし方を変える

・地方が都市部のリソースを活用する時代へ

都市部が地方人材を活用した戦後70年

コロナ後は、地方が都市部のリソースを活用する時代へ ※図

「Uターン」は最高の人材育成システム

都市部の役目は人材活用から人材育成へ

 

・地方と都市部をつなぐ「ローカルシティワーク」とは?

地方移住の最大の障壁は「仕事」

ICTでローカルワークとシティワークの垣根がなくなった

地方で最先端ビジネス、クリエイティブワークが可能に

地方を拠点に都市部のリソースを活用して付加価値を創出

都市部のマーケットに販売して得た利益を地元に還元する

住む場所と仕事はトレードオフではなく両立可能

 

・ローカルシティワークのメリットは無限大

職住近接――人間本来の働き方、暮らし方が可能に

自然(癒し)と都会(刺激)のバイオリズム

低ストレス・高クオリティライフ

都市型災害リスク、過密リスクからの解放

自分ブランドの強化

故郷やゆかりのある場所への貢献

場所を選ばず好きな人と好きな仕事ができる

課題が多く、プレイヤーが少ない地方はビジネスチャンスの宝庫

本当の意味での地方創生・地方活性化の主役になれる

 

  • 第3章 「ローカル×シティ×ワーク」――掛け算の働き方、暮らし方のダイナミズム

case01_都市部の仕事を地方に持ち込む/case02_地方と都市部を行き来する/case03_二拠点生活/case04_地方で仕事を創る/case05_地方で起業する/case06_コロナ移住 etc…

・ローカルシティワーク①兵庫県北播磨・加東市 シェアハウスコンサルタント

・ローカルシティワーク②兵庫県北播磨・三木市 IT企業経営

・ローカルシティワーク③兵庫県淡路島 経営企画

・ローカルシティワーク④新潟県 IT企業経営

・ローカルシティワーク⑤長野県

・ローカルシティワーク⑥北海道

 

  • エピローグ これから10年の働き方、暮らし方の在り方

・それでも人は都市に引き寄せられる

・アフターコロナ時代の地方移住の在り方はどうなるのか?

・都市集中と地方暮らしが同時進行し、適度に分散する社会へ

・働き方、暮らし方がさらに多様化していく

・ローカルシティワークの進化の可能性

・ローカルシティワーカーこそ地方創生・地域活性化の主役