装丁イメージ
本日(2024.6.28)、色校正が上がってきました。束見本に巻いてみましたので雰囲気をご覧ください。深く鮮やかな紫に金文字が映える高貴で上品な仕立てになっています。
内容紹介
和紙が貴重だった平安時代、
紫式部はいったいどんな紙を用いて『源氏物語』を書き上げたのか――?
平安時代に藤原摂関家が重用し、鎌倉時代には幕府が公用紙として用いた兵庫県多可町産の名紙「椙原庄紙(すぎはらしょうし)/杉原紙(すぎはらがみ)」。1300年の歴史を誇る「椙原庄紙(杉原紙)」と紫式部との接点を探り、「手漉き和紙」の歴史と魅力に迫る。
兵庫県の中央部、山川里の自然豊かな多可町加美区の杉原谷(すぎはらだに)地区は、1000年以上前の関白・藤原頼道の時代にはすでに摂関家荘園(平安貴族の農園)だったと考えられる(荘園時代の地名は椙原庄[すぎはらしょう])。
著者は地元・兵庫県多可町の町長を5期(旧加美町時代含む)務め、現在は杉原紙の研究と普及活動に情熱を傾ける市井の一人。数多くの史料を手がかりに紫式部や清少納言が使用したとされる紙に関する仮説を提起し、「椙原庄紙/杉原紙」が紫式部や清少納言が愛用した紙である可能性を探究。
手漉き和紙の魅力や価値についても詳細に掘り下げ、その貴重な歴史と素晴らしさを和紙愛好家、地域資源を活用したまちおこしに関心のある人たちに伝える。
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「地域おこし協力隊」の生みの親・椎川忍氏推薦!
「地域おこし人」必読の書 =首長、議員、公務員、地域おこし協力隊など=
郷土愛と地域愛に満ちた眼差しの中でこそ見えてくる「埋もれた地域資源」とそれに関する「歴史的想像力」の豊かさに敬服し、著者の地道な活動とあふれ出る力強さに感動しました。地域活性化や地方創生の「原点」をこの本から学んでください。
総務省初代地域力創造審議官、元自治財政局長
(一財)地域活性化センター常任顧問(前理事長)椎川忍(しいかわしのぶ)
著者紹介
戸田 善規(とだ・よしのり)
総務省地域力創造アドバイザー。前・兵庫県多可町長。
総合型まちづくり機構「たかめっせ」理事長、(一財)地域活性化センター顧問、日本赤十字社兵庫県支部監査委員、杉原紙振興ボランティア(和紙研究)など。
〔略歴〕1952年兵庫県生まれ。衆議院議員公設第一秘書、社会保険労務士、㈳ 西脇青年会議所理事長、兵庫県加美町長、合併後に初代多可町長〔首長職5期〕。この間、内閣府地方分権改革有識者会議議員、厚労省厚生科学審議会分科会委員、兵庫県町村会長、近畿町村会長、全国町村会理事などを歴任。〔著作・論文〕「杉原紙~思い草の記~」(杉原紙研究所)、「地域振興と情報政策との連環」(日本地域開発センター)ほか。〔賞罰〕2023年春叙勲「旭日小授章」受章など。
目次
はじめに
「椙原庄紙(すぎはらしょうし)」は和紙のプラチナ遺産 ~
令和6年のNHK大河ドラマでは、珍しく平安時代が取り上げられました。
「光る君へ」というタイトルは『源氏物語』を連想させ、興味をそそります。かつて平清盛を主人公にした作品がありましたが、女性が主役の平安期の物語は、大河ドラマ史上で初めてかもしれません。
なぜ平安期を描いた作品がそれほど存在しないのか。おそらく、この時代は参考となる史料が極めて少ないからでしょう。「光る君へ」の脚本は、主として藤原道長の『御堂関白記』、藤原行成の『権記』、藤原実資の『小右記』、その名もズバリ『紫式部日記』などの日記モノや、赤染衛門(あかぞめえもん)の作とされる『栄花物語』などに頼るほかありません。
もちろん紫式部の『源氏物語』や清少納言の『枕草子』の記述内容から想像を膨らませ、創作された場面も多分にあると思います。
手がかりとなる情報が限られる中でどのような構成を描き、ストーリーが展開されていくのか、毎回興味を持って視聴している筆者ですが、もう一つ、皆さんとは異なる視点を持っています。
私は料紙(りょうし)、つまり「素材としての紙」に注目して番組を観ているのです。
藤原為時〔式部の父〕の部屋に積まれている「巻紙の類」は何処の産紙なのかなどと、自由に想像しながらドラマを楽しんでいます。
歴史を書き残すために欠かせない「紙」は紀元前2世紀頃に中国で発明されたといわれています。その後7世紀頃に、高句麗の僧の雲徴(どんちょう)によって紙の製造法が日本に伝えられたというのが定説です(しかし本文で詳述しているように、実際にはもっと早い時期に大陸から日本に紙の製紙技法がもたらされていたようです)。
奈良時代、日本に伝わった紙は精度を上げるために改良が重ねられ、日本独自の和紙として発達していきました。当時は写経や戸籍用紙、公文書だけに用いられていたようです。
平安時代を迎えると貴族が和歌を詠んだり、漢文や書物を認めたりする用途としても使われるようになっていきます。
しかし平安期は、その時代を正しく理解するための記録に欠けるため、どのような紙が使われていたのかを知る手がかりはほとんど存在していません。
だからこそ、私は思い描いてしまうのです。
紫式部はどのような料紙を用いて『源氏物語』を清書したのだろう。
清少納言も然りで『枕草子』が書かれたのは何処の産紙なのだろう。
彼女たちは「貴重で入手し難かった良質の紙」をなぜ大量に使えたのだろう。
藤原道長や藤原行成、藤原実資の「日記」は何処の産紙を使っているのだろう――と。
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このようなことを日々考え、その論証を企てる筆者は、日本史には多少の関心はあるものの「歴史作家」でも「歴史学者」でもありません。
首長職を退任後、地元〔兵庫県多可町〕の手漉き和紙「杉原紙」の歴史面での研究と、伝統和紙の魅力を町内外の方々に伝えるために、「和紙博物館〔壽岳(じゅがく)文庫〕」で「語り部ボランティア」として活動している市井(しせい)の一人です。
兵庫県多可町加美区の杉原谷(すぎはらだに)地区(旧の椙原庄(すぎはらしょう))は、1000年以上前の関白・藤原頼通の時代には、すでに摂関家荘園であったと考えられています。
摂関家が「近衛家」と「九条家」にわかれ、後に五摂家となった後も、杉原庄は室町時代の明応・文亀の頃(1500年)まで、「近衛家」の荘園として料紙「椙原庄紙(すぎはらしょうし)(杉原紙[すぎはらがみ]」を毎年欠かさずに貢納してきた地域なのです。
そんな歴史を有していますので、平安時代の「物語」や「日記」の類を見聞きすると、地元多可町の昔の産紙『杉原庄紙』に書かれているのではないか、と思いを募らせてしまうのです。
先に結論を述べれば、「紫式部が『源氏物語』を清書した紙も、清少納言が『枕草子』を記した紙も、兵庫県多可町産の『椙原庄紙〔現在の杉原紙に繋がる紙〕』に違いない」と考えています。
特に『源氏物語』は世界で最古といわれる長編小説であり、「紫式部」は長い時間を料紙とともに過ごしています。
いかに「紙」とはいえ、誰も嫌な紙とは長い期間を一緒には過ごせません。きっと、紫式部は書き心地の良い高品質の料紙と時間をともにし、筆を走らせていたはずです。
我が国においては「紙」は素材としてだけ扱われ、漉かれた「紙」そのものを芸術作品として見なされることが少なく、誠に残念です。
しかし世界では「手漉きの紙」そのものが芸術品であり、文化史的にみれば、『源氏物語』が「どこの産紙に書かれたのか」との問いかけは、大きな意味合いを持つテーマだと考えます。
そこで、この本を手に取っていただいた貴方には、「紫式部が愛した紙――それは『椙原庄紙(杉原紙)』に違いない」という筆者の検証を通じて、「手漉き和紙」の歴史とその素晴らしさを知っていただきたいのです。
現在の『杉原紙』は多可町立製紙所「杉原紙研究所」にて重要無形文化財として存続させることを主目的に漉かれている日本で最も良質な「手漉きの楮(こうぞ)紙」です〔兵庫県指定重要無形文化財〕。
『杉原紙』は、大量に出回り、日常的に消費されている類の「機械漉き」の紙ではありません。
上代から数えて1300年の歴史を誇り、藤原摂関家の料紙として燦然と輝き続けてきた「手漉きの椙原庄紙(杉原紙)」は、今や『和紙のプラチナ遺産』(プラチナ遺産とは〝価値ある地域資源〟との意で筆者の造語)ともいい得る貴重な紙なのです。
その紙の軌跡を筆者とともに辿っていただき、『椙原庄紙(杉原紙)は和紙のプラチナ遺産』であることを確認いただければ幸いです。
版元からひと言
著者の戸田善規さんから、「地元多可町の杉原紙をテーマに執筆した原稿を本にしたい」と相談を持ちかけられたのは2024年4月でした。
稿本を拝読すると、論文調の難解さはあるものの、読み込むほどに緻密に構成され、ひと言ひと言にまで意識が行き届いた素晴らしい原稿であることがわかるとともに、何より地元愛に満ちた傑作であることがわかりました。
背景にあるのが、地元・多可町への、そして杉原紙への誇りです。町長職を計5期務められた戸田さんだからこそ、急激な少子高齢化と過疎化の大きな波に晒されている地元の将来を誰より憂いているのです。
「地域の特性」がなくなり、住民の心底から「地域への誇り」が失われれば、「ふるさと」は滅ぶのは必定――これは戸田さんの言葉です。
では地元多可町の「地域の特性」とは何か――それが本書で取り上げている「杉原紙」です。
首長職を卒業した戸田さんが歴史ある杉原紙の研究を重ね、杉原紙を育んだ多可町の地域学と、これまでに得た和紙の知見とを合わせて、自分なりの論考を遺そう。そして地域内外の人たちに杉原紙の歴史と魅力を知ってもらおう――そんな想いで書き上げられたのが本書『紫式部が愛した紙』です。
地元の地域資源を発信する受け皿になりたい――これは当社スタブロブックスが創業した目的のひとつ。当社の所在地である兵庫県加東市は、多可町と同じ北播磨管内に属します。
著者の戸田さんと想いひとつに、『紫式部が愛した紙』を皆さんにお届けできることを幸せに思います。
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本書発刊にあたり、推薦文をいただいています。ここにご紹介します。
【推薦】「地域おこし人」必読の書
著者の戸田善規さんは、衆議院議員の公設秘書を経て合併前の旧加美町長を2期、その後、合併後の新多可町の町長も3期務められ、その間に兵庫県町村会長を6年も務められた人望の厚い方です。
このような経歴を見ると尊大な方と思われる向きもあるかもしれませんが、実は大変お人柄の良い方で退職後も地域活動に熱心に取り組まれています。私はそのお人柄と活動に着目して、一般財団法人地域活性化センターの顧問にお迎えして、職員のための人材養成塾の講義や関西OBOG会での講話などをお願いしています。
また、そのご経歴を生かして、兵庫県町村会に人材育成の大切さを働きかけるため全町村をセンターの職員と一緒に回っていただき、センターの人材育成機能の活用、とりわけ研修生(人材養成塾生)の派遣を実現していただきました。
戸田さんは地域活性化や地方創生の決め手は大昔からある地域資源の発掘と価値の再生であり、そのことによるシビックプライドの醸成だと語られています。このことは、私が総務省の初代地域力創造審議官に任命されたときに、有識者会議を設置して様々な議論をしていただいたときの結論と一致しています。
多可町におけるそのような重要な地域資源のひとつが椙原庄紙(杉原紙)であり、戸田さんはその研究と歴史の伝承活動を続けてこられました。まことに慧眼であるとともに立派な実践活動であると、私は高く評価しています。
その戸田さんが今回のNHK大河ドラマの放映を契機に、この時とばかりに出版を決意されました。これもまことに時宜を得た、また、素晴らしいスピード感のある取り組みだと敬服するばかりです。
また、地元の出版社から出版されるということで、私もかつて何冊かの本を山陰の会社から出版していますが、それは地域の経済循環のことを考慮してのことであり、この考えも戸田さんと一致したのが当然と言えばそれまでではありますが、やはり地域おこしのプロというのはこういうものだと納得しました。
このようなことから、私は推薦文の執筆依頼を受けた時に、喜んでお引き受けしました。私もこの本を楽しみに読ませていただき、「地域おこしのポイントはこれなんだよな」とにやにやしています。
地域おこしを志す人は、決して近道をせず、時間をかけて本質的なことに取り組んでほしいと思っています。長年の間に人口が減り、疲弊してきた地域を再生することはそう簡単に短期間でできることではなく、こういった地道で本質を突いた取り組みが必要です。
そういう意味で、この本は大変興味深い内容を含んでおり、歴史が好きな方には読んで楽しいものですが、単にNHK大河ドラマの解説本でもなければ、歴史を読み解いた本でもありません。
この本は、まさに「地域おこし人」必読の書であり、このような手法はどこの地域でも応用できる教科書のようなものです。
自分たちの郷土に昔からある価値の高いものを、埋蔵文化財のように深い愛情をもって大切に掘り起こし、その歴史を解き明かし、それを地域の皆さんと共有し、シビックプライドの醸成につなげる、これが地域おこしの原点です。
地方自治体の首長さん、議員さん、公務員の皆さん、そして私が創設した地域おこし協力隊の皆さん、その他地域おこしを志すすべての皆さんにぜひ読んでいただきたいと願う次第です。
総務省初代地域力創造審議官、元自治財政局長
(一財)地域活性化センター常任顧問(前理事長)椎川忍
【推薦】摂関家の紙「椙原庄紙」の魅力と歴史を知る
『紫式部が愛した紙』は、手漉き和紙「杉原紙」の魅力と歴史に焦点を当てた貴重な一冊です。著者である戸田善規氏は、地元兵庫県多可町の和紙の研究と普及活動に情熱を傾ける市民の一人として、独自の視点から紫式部や清少納言が使用したとされる紙に関する興味深い仮説を提起しています。
この本は、歴史作家や学者ではない戸田氏の視点から、歴史的な背景や摂関家の荘園としての重要性を踏まえ、「椙原庄紙(杉原紙)」が紫式部や清少納言が愛用した紙である可能性を探求しています。また、手漉き和紙の魅力や価値についても詳細に掘り下げられており、その貴重な歴史と素晴らしさを読者に伝えることを目指しています。
本書を手に取る読者には、日本の伝統的な手漉き和紙の美しさや重要性を再認識し、その素晴らしさを垣間見ることができるでしょう。戸田氏の情熱と研究成果を通じて、手漉き和紙が持つ文化的な遺産としての価値を理解することができるはずです。
この書籍は、和紙愛好者だけでなく、数多くの皆さんにお勧めしたい一冊です。
流通科学大学人間社会学 学部長 教授 西村典芳